カミカゼ☆エクスプローラー!

 巷での評判通り、気に障る要素の極端に少ない作品という印象だった。
 性的な興味について適度にオープンな主人公は展開を無闇に遅滞させることもなければ感情移入を阻むこともなく、日常シーンでの皆の仲のよさは一時的な意見の衝突の上でも揺らぐことがない安心感を備えている。全てのシナリオを終えて俯瞰してみれば根源的な悪人を見出すことはできず、敢えて言うならば作中で黒瀧らが語ったように全ては天命だったと見做すのが穏当なところだろう。能力バトルは殺伐としすぎることも陳腐に堕すこともなく適度な緊張感を維持してくれるし、そこでの主人公の特異性の扱いも悪くなかった。総じて、気にならないでもないがまあ許せるといった程度の瑕疵を丁寧に排除していったような感触。
 学園ハーレムを組み上げるにあたり、必要な要素と不要な要素とを精査し、不要なものだけを排除した―――というのが感触の上では最もそれらしい形容だ(実際の製作過程については知らない)。「必要なものだけを配置した」ではない、というのが僕の感想の上では重要なのだが。つまり、もっと面白く/緊密で/完璧な作品にする余地は多分にあったろう、ということ。
 しかし現にこれだけの完成度で心地よい世界を成立させているのだから、結果論の理想について語るよりは、まず実際の達成について評価したいと思う。
 
 以下、√ごとの雑感。
 
・沖原琴羽
 あまり印象にない(最低)。……やはり物語の中核にほぼ触れない√だけあって、書きづらかったのかなーという印象が非常に強い。
 負けヒロイン的な立場であることを自覚する幼馴染、というのは大変よい。分析癖のある主人公が肝心の真意については分析しきれていなかった、というのもまた。
 
・速瀬まなみ
 要所要所での突っ込みが冴え渡る妹。声優の力、というものを実感する。
 実妹であり、シリアスに葛藤もする―――が、全体の雰囲気としては重くならない、というのが少し引っ掛かった。今作で扱える範囲を越えたシリアスという感触。近親相姦について、周囲の目が優しいのは良し悪しだろう(やはりひまチャきねねねぇ√を想起せざるを得ない―――甘やかしてなんかやらない、という優しさ)。主人公が覚悟完了していただけに、勝手に身を引こうとするシーンはまなみの一人相撲の感が漂う。とはいえ、無論として禁忌をも乗り越えてまで進もうとする恋心こそがまなみのペネトレイターを象徴するものであり、実妹設定はペネトレイターによって貫かれる障害のひとつとして配置されただけだ、と読むのがまあ穏当ではあるのかな、とも思う。
 個別前だが、脱衣所ではち合わせる場面のCGが作中最強のShicorityを有する。
 
・姫川風花
 えろい委員長。学園有数の美少女なんだけど、特に男子勢からの嫉妬を一身に受けたりしないのが大変善い。
 盾のメティスであり、守護のメティスである。相手能力の無効化は調停者としてのパーソナリティが強く反映されたもの、ということだろうか。盾→他者への心理的隔壁という読み替えが一切遣われなかったことには少し驚いたが、その種の読み替えで豊かになるキャラクターには見えないので、正しい処理だと思う。
 
・祐天寺美汐
 青山ゆかりの声は大好きだが流石にメインヒロインだと若干つらいものが感じられる昨今。年下キャラはちょっと無理が……こう……。
 菜緒先輩に真相を語らせるうえで、彼女に死が迫った状況を容易するというのは必然性を感じられる処理だった。それくらいしないと菜緒先輩は動かないだろうし。あのシーンに全てを持って行かれたような感触すら。
 
・宇佐美沙織
 エロシーン全般が苦手。くるくるとか含め。やはりゆのはなでほなにーが最も苦手マンだけのことはある。
 最終的なシリアス部分の処理は最も好みだが、個別に入った直後の主人公誰だこれ感については如何ともしがたく、出来れば個別突入と同時にゆるやかな変化を重ねて終盤の主人公が完成するような展開にして欲しかった。冷静さが売りの主人公にいきなり草津拓也さんが3割くらい憑依したような感触だったので。
 口先男と揶揄されるところから始まり、言葉は事実を規定してしまうからと真実を濁され、言葉はただの言葉に過ぎないと結論付ける流れは中々に巧く決まっていたと思う。覚醒したメティスによる全人格的な把握が恋を終わらせてしまうのは怖いが、遣わねば絶対に勝てない―――という二律背反が、人は変化し成長するという(作品全体を貫く)テーマによって解体されるのが善い。
 
 
 あまり感想に書くことないなー、というのはあって。問題意識がギュンギュン音を立てるタイプの作品ではない(僕の問題意識に掠らない、というだけの話。念の為)。
 プレイ後に一括して書いているから、ではあろう。まともに書くならおそらく、プレイ中に巧いと感じた部分を逐一記録し、都度仔細に検討していくような行いが必要だ。全体としての構造よりも積み重ねられた部分それ自体の精度の高さに着目せねばならない作品だろうし、そういったことを書くには僕の記憶力は貧弱に過ぎる。そういう話だと思う。