異能バトルは日常系のなかで 3話まで

 長編ラブコメの要点はその始まりと維持と終わり、それぞれのフェーズに於いて適切な処理を選択し、各フェーズの接続と断絶とを恣意的に操作することにある。始める仕掛けと終わらせる仕掛けのほかに、続けるための仕掛けが必要とされる。
 ただラブコメを続けたいだけならば、事はそう難しくはない。サザエさん時空を採用し、致命的な世界の変動―――たとえば、誰かの告白など―――を許さない微温的な空間を維持し続ければ、それは終わらない。だが無論、エモさ一点突破至上主義者が意思決定をする限りに於いて、そのような選択肢は肯定され得ない。なんとなれば、ラブコメのエモさに於いて極めて重要なのは告白であり、恋愛の成就または失恋であり、つまるところ致命的な世界の変動そのものであるからだ。
 どれほど安定に続く世界であっても、エモさを取り出せなければ意味がない。僕やあなたのような、エモさ一点突破至上主義者にとっては。宇宙空間で空転し続けるモーターは永久機関ではないのだから、座して眺めるだけではなく、そこから最大のエネルギーを取り出すための条件を考えなければならない。それが、そこにある永遠に止めを刺す行いだとしても。
 
 本作に於ける「中二病」(実質的には邪気眼だが、以後は作中の用語法に倣う)は、その意味では理に適った機能を有している。終わらせないための機能と、そしてエモさを最大化するための機能と。
 前者について。主人公の「中二病」は、常に悪ふざけとして扱われる。三話での他の中二病患者との対峙シーンで語られた通り、無論として本作に於ける「中二病」はマジなものとして扱われる―――彼らは本質的にはポーザーではない―――のだが、一方で、中二病ではない彼女らにも「中二病」という概念への俯瞰的な理解があることにも注目せねばならない。第三の中二病患者との対話で明らかにされたように、彼らの「中二病」はこんな筈ではない想像上の自己への憧憬と/こんな程度でしかありえない現実の自己への承認欲求との背中合わせの渇望でもって駆動されている訳だが、そのような来歴にも関わらず、彼らの振る舞いは俗人が想像する通りの「中二病」像を逸脱しない。どこまでも既存のコードに乗ったものとして扱われるそれは、オリジナルではありえない。必然的にそれは仮構された自己としての機能を有し、彼ら彼女らはそのようなペルソナとの恋愛を志向しない。終わらないラブコメの要件、その一つ目だ。
 後者について。上記した通り、主人公の振る舞いは本質的に仮構である。ここに、主人公が実は理知的で優しい人物であるという事実が最大限に生きてくる。ヒロインと接する時の彼は常に「中二病」の少年として、である―――少なくとも、三話までの時点では、少数の例外を除いてそうだ。だからこそ彼が、「中二病」としてではない素の彼が表出する時、そこにはエモさが生じる。なんとなれば、エモさの基本は単純化であるからだ。複雑さが縮減し、経時的な変化が高速化し、感情が虚飾を失った時、それはエモい。また一方で、この種のエモさの生成は主人公とヒロインとの一対一のシリアスな対話(cf.会長回での幼馴染との会話)は勿論、ヒロインたちが不在の彼のことを話題に出す際にも成立する、ということに注意せねばならない。
 
 上記したような巧みさと、仮構と本質、本音と建前、そういった問題への意識を窺わせる話運びから、技術的な期待を寄せる余地は大いにあるように思う。とはいえ、実はここまで記述してきた巧さはそっくりそのまま『生徒会の一存』シリーズにも見いだせるものであり、無論としてそこに見出すべきは生存ひいては葵せきなのヤバさ/先進性であって本作の瑕疵ではないとはいえ、この上にどのような美しい論理が構築されうるのか、現状では手放しで呑気に期待できるかと問われるとだいぶ怪しいというのが本当のところだ。
 期待できる要素としては、「中二病」について、そう願った理想の自分としてのみではなく、その陰に潜む、そうなれはしない本当の自分への承認をも同時に求める衝動であると定位している点が挙げられる。その鋭さがどのように実を結ぶかは、期待してもいいのではないかと思う。
 繰り返しになるが、現状の世界観を成立させるための手管はそのまま『生徒会の一存』にその先例を見ることができる。つまり、「中二病」という概念は生存におけるハーレム願望に対応しているということであり、生存の杉崎鍵がそうであったように、本作の主人公もまた、「中二病」という概念を最大限に利用することが期待される。そこは現状では浮いている部分であり、だからこそ、作者の思い通りに操作できる武器となるのだろうから。
 
 
 蛇足。
 早見沙織がすごい喋ってるのですごくいい、んだけどやっぱり六畳間の早見沙織の方が好きだったにゃあ……。いや、六畳間の早見沙織は本当に奇跡だったので、あれをアベレージで求めるのって大変よろしくない気もするんだけど。
 福原香織の声がいつまで経っても同定できない。つかさってマジですか。あと親友キャラ(?)の声が古城くんだと気付かない糞耳っぷりに軽くつらさを覚えたりもしたという。