異能バトルは日常系のなかで 鳩子氏について

 だいたいTwitterで書いた通りの話で、付け足すこともあんまりないんだけど、あんまりにもあんまりな読みが視界に入ったので。
 啓蒙行為への情熱とか別に持ってないけど、ああいう読みとは距離を取りたいということの表明くらいはしておく。これを読んだ誰がどう思うかは知らん。そういう意味では、正しく自慰行為と思ってもらって差し支えない。

 寿くんの言ってることはひとつもわかんないよ!
 寿くんが良いって言ってるもの、何が良いのかわかんないよ!
 わかんない! 私にはわかんないの!
 (中略)
 内容もちゃんと教えてくんなきゃ意味がわかんないよ!
 教えるならちゃんと教えてよ!
 神話に出てくる武器の説明されても楽しくないよ!
 グングニルもロンギヌスもエクスカリバーデュランダルも、天叢雲剣も意味不明だよ!
 何が格好いいのか全っ然わかんない!
 他の用語も謎なんだよ!
 原罪とか循環とか創世記とか黙示録とかアルマゲドンとか、『名前がいいだろ』ってどういうこと?
 『雰囲気で感じろ』とか言われても無理だよ!
 相対性理論とかシュレディンガーの猫とか万有引力とか、ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ!
 中途半端に説明されてもちっともわからないんだよ!
 ニーチェとかゲーテの言葉を引用しないでよ!
 知らない人の言葉使われても、何が言いたいのか全然わかんないんだよぉ!
 自分の言葉で語ってよ!
 お願いだから私のわかること話してよ!
 中二ってなんなの? 中二ってどういうことなの?
 わかんないわかんないわかんないわかんない、わかんない!
 寿くんの言うことは、昔からなにひとつ、これっぽっちも、わかんないんだよぉ!

 アニメーヒョンから聴き取りで写したので、間違いや原作との表記の齟齬があったりするのはご容赦頂きたい。指摘と批判は受け付けます。
 
 で。
 前提として、鳩子氏は中二病一般を批難したりはしていない。メタな読みとして拡大解釈することの是非を問う前に、そもそも彼女が問題としているのは中二病の価値のあるなしや恥ずかしいか否かといった事柄ではない、ということは確認しておきたい。
 彼女が主張したいのは極めてシンプルな事柄だ。「主人公と楽しい時間を過ごしたい」。理解したい、と言ってしまっても構わない(当然ながら楽しい時間を過ごすことと相互理解が成立することとは無関係にそれぞれ成立する―――が、それが語られるのは7話終盤であり、この長台詞の時点の鳩子氏の認識としては、それらは直結するものである。そこからの論理の転回こそがひとつの山場なのだから、その正しくなさはまず肯定されるべきだろう)。
 彼女の欲求は主人公の発話を理解したいという一点に尽きる。だから、彼女の台詞は「楽しくない」「意味不明だ」「わかんない」であって、「格好悪い」「おかしい」ではない。特筆すべきは、中二病をやめろという旨の台詞がないことだ。
 ここで問題とされているのは鳩子氏が主人公の語る中二病的ワード/ストーリーの格好よさを理解できないことであって、中二病そのものが良いか悪いかなどは端的にどうでもいい話でしかない。そもそも、鳩子氏の言う「中二病」とは、主人公が語るなんだかよくわからないものに貼られたラベルでしかない。これまでの話で何度も、主人公の―――殊に、「中二病かよ!」というツッコミを期待した―――振る舞いを、そうと気付くことすら出来ず、天然で潰してしまったのは誰だったのか思い出そう。彼の振る舞いを馬鹿にしていいものだと判じられる程度の理解すらできなかった、千冬ちゃんにすら完璧に出来ていることが覚束ない、その事実こそが彼女を苛み続けてきただろうということを認識しておく必要がある。
 たとえば仮に、彼女だけがおかしくて、作中の中二病的な振る舞いを皆がやっていてそれを鳩子氏だけが理解できない世界だったとしても、話は全く変わらない。何なら、鳩子氏だけが中二病で、主人公の語る普通の話の面白さが全くわからないとしても同じだ。彼女にとっての懸案はひとえに幼馴染の発話が理解できないことであり、彼と彼女のどちらが一般的な尺度から異常だと判じられるか、彼と彼女のどちらが多数派に属するか、などは全く問題ではない。これは二者の間で閉じたプロトコルの話であり、僕が以前、中二恋を引き合いに出したのもそのためだ(中二病、というか邪気眼の話をする上での基本中の基本であり、被ったとわざわざ指摘するような話でもないのだが、まあ)。
 このように考えた時、立て板に水の、流暢すぎて悪意的を通り越してギャグに聴こえすらする、中二病の類型に対する批判などは非常に示唆的だ。そうやって一息に喋り続けてしまえる程に、彼女は彼が語った「わからない」ものごとを記憶し、理解しようと努力していた、ということが理解される。意味のわからない、楽しくない、でも好きな相手の語ってくれた話を、彼の語り口まで含めて覚えている、なんてことができるだろうか。中二病さえなければいいのにとか、中二病をやめてくれないかとか、そんなことは一言も漏らさずに、ただ一人で理解を試みる、などという行いが、常人にできるものだろうか。
 僕は七話〜八話での話運びを肯定はしないし、それどころかここで明確にハンドリングを誤ったと考えている(僕の脳内のさいつよな異能日常を実現する理路はもう存在しない!)。だが、ここで垣間見えた彼女の一途さはとても好ましく、尊いものに思えた。仮に今作の物語を忘れても、僕は鳩子氏というキャラクターのあの叫びを忘れないだろう。幼馴染の少女が発火した、あの瞬間の光だけは。
 
 このような見地に立った時、あの長台詞をメタな中二病への批判であると、大多数に向けて開かれた言葉であると、そう判断することは肯定しがたい。あれは櫛川鳩子が安藤寿来ただ一人に向けて放った言葉であって、僕や君や彼ら大勢に向けた言葉ではない。そのような観方は、彼女の気高さを嘲笑うものだろう。
 馬鹿にされているのは僕でも君でも中二病の人々でもなくて、彼女だ。そのことが、僕は許せない。
 
*追記(2014/12/07)
 コメント反応。なんつーか絶望してます。

mahiru123 相手が関心を持ってることに興味を持って自分で調べることもなく、むしろ相手の知識を馬鹿にして、相手の趣味を否定し、自分の理解出来る話をしろと。とても人間的で理解はできるが好感は持てんな。

 国語の初等教育を受け直すことをお勧めします。
 いや本当に。誤読どころか論旨と正反対のこと書いてますよ。どうやったらそんな解釈ができるんだろう。
 

rag_en いやいや。このアニメで「メタ視点」を排除して見るのはどうなん?まぁ止めはしないけど。

 端的に詭弁なのでお話になりません。詭弁と言って悪ければ、主語が大きすぎて何も言えていないに等しい、とでも言っておきましょう。
 この文章では、引用した長台詞に於ける櫛川鳩子の振る舞いを現実世界の中二病、もとい邪気眼批判に拡大すること、或いはそのような意図を作者が持っていると見做すこと、についてのみ批判しています。主人公の振る舞いが邪気眼概念の取り扱いに関してメタな意味を持つこと、また表題に含まれる「異能バトル」「日常系」という概念の対置、他にはまあ異能の内容と人格との連関の薄さだとか、無数にメタ読みできる要素の散りばめられた作品ではありますし、そんなことは前提に過ぎません。だからこそ、メタ読みを許さない強度を持ったシーンはその強度を尊重すべきだ、と言っています。
 頭が悪くて(或いは長文が読めなくて)理解できないと困るので簡単に繰り返しますが、「このシーンはメタ読みさせない、本編中の論理だけで完結している」からこそ善いのだ、ということを言っています。いいですか? 採択されうる道筋のひとつとして、みたいな話ではありませんよ?
 適当な煽りとして書いたならまあはてブなんてそんなもんだよねーという話ですが、まじめに書いてるなら頭の出来を疑います。煽りとして書いてるのであれば人格を疑います。どっちにしても普通にゴミだと思います。
 
 なんで本文中でリンク貼らずに引用したかというと、クソすぎて晒し者にしたかったからです。それ以上の意味はないですし、おふた方に考えなおしてほしいとか、謝罪してほしいとか、対話してほしいとか、その他ありとあらゆる僕に向けてのアクションを期待するつもりはないです。
 単純にこうやって晒して自分で削除できない場所に浅慮の結果を保存される恥ずかしさを味わって貰えれば、それは最高に嬉しいなって。
 
*追記(2014/12/22)
 コメント反応。とりあえず現状ワーストです。

amamako 面倒くさい人たちだなぁ。/でもま、昔のエロゲ論壇ってこんな漢字だったよね。keyとか絶賛していた人らの。そういう意味では、古き良き(?)はてな村なのか

 論旨に対する肯定か否定かかも判らないし、「人たち」の範囲も判然としない悪文ですが、とりあえず書き手の立場に関係ない部分について言及します。
 端的に卑怯な物言いです。書いてある内容にたとえ的外れであっても言及しているという意味では、上に挙げた二人の方がまだマシであると言わざるを得ません。これは仮にこの人が僕を全肯定する立場であっても同じことです。言及の姿勢として、許しがたいほどに醜悪です。
 僕ははてなの慣習全般に否定的ですし、殊にその中でもはてブで適当なレッテル貼りを繰り返す類の阿呆には心底うんざりしています。つまり、この人のような。初手から相手を見下し、関心のない問題についてレッテル貼りで構図を矮小化する、こういう振る舞いこそが害悪であり、唾棄に値すると僕は考えます。
 
 上記言及の強度を下げる余計な蛇足(重言)。蛇足なので文体も崩れる。

自分たちと異なるものであっても、(それが普遍的人権を犯すものでない限り)許容する、そういう社会を作る事こそが、結局、私達全員が幸せになる、一番の近道のなのです。
そしてそういう社会がこの国に作られる可能性があるなら、僕は、まだこの国に希望がもてます。
( http://amamako.hateblo.jp/entry/2014/12/13/135332 )

 keyとか絶賛していた人らの、と訳のわからないレッテル貼りで見ず知らずの人間集団を馬鹿にしてしまえる人間が多様性を語るというのはギャグか何かですか。
 いやそもそもkeyとか絶賛していた人らを馬鹿にしている時点で善くないんですけど。自分の中の「よくないもの」を所与として相手に属性付加しバカにする、それって完全にセクシャルマイノリティを迫害するための常套手段であり正にあなたが批判してる振る舞いそのものちゃうかったんと思っちゃうんですが、自分の暴力は綺麗な暴力だと思っちゃうタイプですの?
 無意識にやってるなら本当に黒須太一が嘗ての親友に投げた言葉を引用したくなりますね。これは本当に。
 
*追記(2014/12/30)

kyuusyuuzinn 「あれは櫛川鳩子が安藤寿来ただ一人に向けて放った言葉であって、僕や君や彼ら大勢に向けた言葉ではない」 結構当たり前のことを言ってるというか、それ以外の解釈があり得るのか?

 無論として、当たり前のことではないです(ここで否定したような読み方も処理の積み重ねによっては正当性を持ち得た、ということ)。誤認を指摘しつつ、本編では当たり前のことではないことが敢えて選択的に採択されていた、そのことの価値について論じる文章でもある、ということをまず認識してほしい。
 一対一の発話は当然ながら個が個に行うものだけれど、それが物語という経時的に積み重ねられたフレーム、或いは作品という構造を通すことでメタな意味を持ちうるということをまず認識せねばならない。エヴァ旧劇の実写パート周りでのレイやシンジやユイやカヲルの発話を外部の事情と結び付けずに読むというのは端的に筋が悪いとしか言いようがない、みたいな話ですね。
 ”それ以外の解釈”については、自分で流れくらい調べてください、としか(それがあったから書いた、ということは相当な阿呆でない限りは読み取れると思うんだけどなあ……)。いっちょ噛みしたいならそれが最低限の慎みだと思いますよ。それは喧嘩を売る側が自分で明らかにしておくべきことです。