リトルバスターズ! Refrain 3話

 停滞する世界の只中にあって、来ヶ谷唯湖は直枝理樹の背中を押して、自らそこを去る。
 ……備忘のためのメモ帳、果たされなかった約束。原作のそういった要素を省いた分だけ、異端さが際立った物語だったと思う。原作以上に何も起こらないルート。最初の花火を最後として、後は何も続かない。停滞するだけの世界の中、彼女は原作のように恋人として振る舞うでもないし、恭介は二人の逢瀬を物憂げに眺めるだけだ。原作で印象的だったイベントはかなりの程度削られていたけれど、それはアニメの大筋に要請された必要な調整だったのだろうし、何より、それらイベントを介さずとも来ヶ谷唯湖というキャラクターが魅力的に描かれていたことを、まずは喜びたいと思う。
 繋ぎの話ではあった。次はいよいよ、鈴の話だ。
 
 以下、与太と雑感と展開予想。
 ―――原作の来ヶ谷ルートにおける恭介の振る舞いは少し不思議で、彼は理樹の恋を最初は支援するものの、振られてしまった理樹が諦めない旨を表明した途端、理樹がこれ以上傷つくことを心配し始める。

【恭介】「…もう、いいんじゃないか?」
【恭介】「これ以上やっても、おまえが心に傷を負うだけの結果になるかもしれない」
【恭介】「そりゃ、好きだなんだの色恋沙汰に、そういう結果はどうやってもついて回るだろうが…」
【恭介】「だが、おまえが傷つく…そんな可能性がこれ以上高くなるなら、俺にはそれを手伝うことは出来ないよ」
【恭介】「来ヶ谷のことだ。今なら全部水に流して、今まで通りにやってくれると思う」
どういうことか、一瞬わからない。
…それはつまり、諦めろってことだ。
【恭介】「たぶん、おまえにあいつの相手をするのは難しいよ」
【恭介】「おまえも前に言ってただろ、来ヶ谷がリトルバスターズから離れるのがいやだって」
【恭介】「ヘタなことしたら、マジでそうなるかもしれないんだぞ?」
【恭介】「気まずくなって、友達ですらいられなくなるってのもよく聞く話だ」
【理樹】「………」
【恭介】「おまえ、そうなったら嫌だろう…?」

冷静に考えてみると、確かに…恭介にしては、的外れなことばかりやっていたように思えた。
それはつまり、最初から、この結末がわかっていて…。
僕があまり傷付かないように、さっきまでみたいに、みんなで軽く笑い飛ばせるように、動いていたんじゃないだろうか。

 恭介の目的は理樹を強くすることであり、自分たち―――GM側三人への依存を弱めることであった筈。失恋を経験したり、その上で尚も足掻いたりすることは、その目的に沿っているように見える。だから、ここでの恭介の発言を字面通り解釈するのはおそらく早計で(傷つく、というのならクドや小毬との恋の方がキツかろうが、こちらではむしろ後押しをしている)、これは来ヶ谷との恋が停滞だけを招く、ループ世界にそぐわないものだという懸念を表明したものと解釈できる。
 だが一方で、他のヒロインの個別ルートを見ても、彼女らは理樹を強くすることに虚構世界での生を捧げているようには見えない。理樹の成長に資することを志向していないのは他のヒロインも同じだ。ここから、ヒロインたちの未練を解消することも虚構世界の目的の内に組み込まれているのだと想像できる(何しろ、突然の死に直面した上での猶予期間こそが虚構世界なのだから)。原作の各イベントの様子から、未練を果たしたヒロインがNPC化し後景化するのだと仮定すると、恭介の「何度でも繰り返す」発言を鑑みても、理樹を強くするための試練はNPCとなった彼女らとの触れ合いでもよいと考えるのが自然かと思う(一度きりのプレイヤーたるヒロインとの触れ合いのみが彼を強くする、となると、ループの本質的な無意味さが露呈してしまうので)。
 さて、こう考えると、恭介が来ヶ谷ルートでのみ消極的になった理由は、実はよくわからない。虚構世界での役割に自覚的な他ヒロインと、役割を無視して引き延ばす来ヶ谷唯湖、という対立構造が完全には成立しないからだ。ループの遅滞にしても、虚構世界でのループは相当な回数の繰り返しを経てきたと想像できるのだから、そこでの実時間の消費がどれほど恭介の計画にとって問題であるか、は確定させる術がないとはいえ、致命的であると断ずるのは難しい。未練の解消を優先するのなら、それこそ来ヶ谷唯湖との恋は他のヒロインとの恋と同様に祝福されて然るべきだろう。
 ……こういった腑に落ちなさについては、世界の構造に他のヒロインが奉仕していないから、という理由でとりあえず説明しておくのがいいかと思う。最大のギミックに忠実に奉仕しつつ、そのギミックに対して異端な立ち位置に存在するはずだったのが来ヶ谷ルートであり、しかし現実には他のヒロインがギミックに関わらない形のシナリオとして完成してしまった。結果として、異端である筈のヒロインが最も世界の秘密に忠実な振る舞いをするに至った。そう捉えておけば、一応の納得には到れる。
 尚、制作の事情については全然知らないので後半は全て妄想です(駄目じゃん)。たぶん企画の内容が何回か変わったことは間違いなかろう、とは思うのだけれど。適当なこと書いておけば以下略の法則に期待しつつ。
 
 で、原作における来ヶ谷ルートは以上のような浮き方をしていたんだけど、それとRefrainアニメ版とを比較すると面白い。
 物語の始まりからして、そもそも来ヶ谷唯湖は恋を実感できている。恭介も彼らの恋を全面的に応援する。鈴は既に、明白な嫉妬を覚えるだけの自意識を確立している。特に印象的なのは恭介の振る舞いの変化だ。2話において、恋が人を強くすると意味深なことを言ってみたり、理樹に「お前は誰かを本気で好きになったことがあるのか」と真面目に詰め寄ったりもする。彼の行動原理が原作と違っているのはまず間違いないだろう。
 恭介の立ち位置の変化については、恭介の来ヶ谷に対する信頼の表れ、と解釈したい(多分に願望を含んではいるが)。無印のアニメ版からずっと、この物語は「リトルバスターズ」という集団の話として展開してきた。直枝理樹が孤軍奮闘する話ではなく、或いは孤軍奮闘するにせよ、その背後には棗恭介だけでなく、他のメンバーの姿がある、そんな物語として。だからこの時点で、恭介は来ヶ谷唯湖がいずれ自分から世界を終わらせてくれることを信じていたのではないか。雨の中、放送室の二人を眺めるあの物憂げな表情は、そういうことだったのではないかと、僕は思いたい。
 ―――そう、アニメ版では、世界を終わらせたのは来ヶ谷唯湖なのだ。原作のように、世界の終わりまで二人で語らうのではなく。明確に、棗鈴へとバトンを渡して、彼女は自らの未練を振り切った。
 無論、そうさせたのは恭介であり、そのような場を用意したのも恭介だ。彼が原作と同様の残酷さを纏っていることは、まず間違いない。だとしても、大枠が変わっていないとしても、棗恭介が来ヶ谷唯湖という人物を他のリトルバスターズのメンバー同様に扱ったというただ一点をもって、僕はこのアニメを観て良かったと感じた。
 
 ……うーん、仮定部分の何割くらいが正解なんだろう。そもそも原作の解釈からして自信がないんだよなあ(断定できない部分まで断定してたりするので)。
 
 4話以降の予測。原作のような鈴ルートはまず不自然になってしまう筈だ、とは言える。描写の水準を信じる限り、鈴は既にそう弱くない。原作通りのHANABI展開に持ち込むのは難しいだろう。何より、アニメ版は理樹と鈴を皆で強くする物語のように読めるし、ここで強く理樹と鈴、それに謙吾の絆を強調する一周目鈴ルートを持ってくる意味があまり見えない。
 ただ、難しいのは後半のHANABI展開であって、たとえば併設校に行くこと自体は問題なく可能ではある(某氏の発案。パクらせて頂きました)。その場合、原作では理樹と小毬以外のキャラクターの携帯が鈴に通じなくなる、という過酷な状況があったところを、アニメ版では全員が問題なく励ますなどする、といった演出で差異を強調することができる。
 とにかく雨の中の野球勝負と茶番だぁーっはPV観る限りありそうなので、どうやってそこに至るか、が焦点になる。強権を振るう恭介とそれを打倒しようとする理樹/謙吾、という構図さえ再現できればいいので、実はHANABI展開が存在しなくても出来る筈。
 あと、OPで日本家屋にいる鈴のカットがあるのは気になるところ。現実世界での鈴のトラウマ、として解釈すれば、必ずしもRefrain中であの場面を再現する必要はない、とは言える。ナルコレプシーの克服と暗い部屋での孤独の克服を対にして、理樹と鈴の二人を救い手として完成させる。……流石にないか。
 
 ……リトルバスターズという集団の強調、来ヶ谷唯湖への視線の軟化、恋を推奨する発言にも関わらずそれほど鈴との恋をさせることに拘ってない点、などについて何だかんだ考えているうち、もしかして恭介だけが死ぬ展開なのでは、という電波がですね。こう。つまり「自分がいなくなっても」彼らが絶望しないように、という意図のもとに総てが行われている説。他のリトルバスターズメンバーも生存するかも知れないし、確実に死ぬのは栓をしている自分だけ。とにかく自分以外の寄る辺を持ってくれればそれでいい、と恭介が考えていたとしたら?
 こう考えると「理樹が強くなり、鈴は理樹と共にいる」という構図を採用しなかった理由とか、恭介が全体的に黒幕としての表情よりも今を楽しむ馬鹿としての表情を多く見せている理由だとかが説明できなくもない。格好良く一人で去っていこうとする馬鹿を、皆が手を繋いで引き戻す話。……SSでやるべきか。流石に。
 或いは、本当に「ここからは一冊しか持っていけないよ」を強調した話にするのかな、とも思ったのだが、現状ではやや無理気味か。Refrainの主題歌が強く展開を示唆するものだったから、ここで無印の歌詞を拾ってくる可能性もないではないか、とも思ったのだけれど。