向日葵の教会と長い夏休み

 某氏の導きによりプレイに至る(えっち伝道師氏に敬礼!)。ありがとうございマックス。
 以下感想です。無駄に長い。 
 
 
 まず、教会で過ごす仲間の中に雛桜という存在を据えたこと、それ自体が既にひとつのファインプレーだったよなー、というのがあって。
 神父という保護者と、雛桜という子供との間で、陽介たちは、ある時は神父のもと未だ幼い存在として大人を目指し、またある時は雛桜を相手に、既に子供ではない者として道を示す。何か大きな出来事を経て大人になる、といった世界観ではなく、先達を真似することで、少しずつ大人になってゆく。そして、彼らの未熟さは信頼によって許され、見守られる。それはきっと、既に大人になった彼らも同じように繰り返してきたことで。そんな、優しい世界観。
 その、幾許かの厳しさを孕んだ優しさこそがこの作品の最たる魅力であり、そしてそれを盤石にするにあたり、モブの子供ではなく、雛桜というヒロイン格のキャラを配置したことが、ただひたすらに巧かったと、僕は思う。
 彼らの輪の中には常に雛桜がいて、陽介たちはいつだって、彼女に対しては大人として振る舞うことになる。未熟さを描く上でも、そして勿論、成長を描く上でも。彼女が常に彼らに囲まれていたことは、とても強く働いていたように感じる。
 陽介たちが神父や他の大人から受け継いだ知恵を雛桜に受け継ぐ時、それは郷愁に満ちた回想として、陽介たちの成長の証左として、そして雛桜という新しい仲間が大人になろうとする第一歩として、いくつもの色を湛えて機能する。教会と共に過ごす最後の夏休み、その愛惜に満ちた物語に於いて、過去と未来を同時に意識させる構図は、極めて強く働く。そんなふうに、思う。
 
 個別のルート感想。
 
・金剛石√
 ぶっちゃけつらい部分が結構あったり。それも割とオールドスクールな泣きエロゲ的なつらさ。
 そろそろ身分違いの恋でヒロインが実家に軟禁されたのを連れ戻しにいって試験を受けさせられたり嘗ての約束が発覚してどんでん返ししたりする展開はそれ単体だと食傷気味だよーという認識が敷衍してほしいというか、2007年くらいまでしかまともにエロゲできてない人間でもこれ見たことあるでござる……ってなっちゃう展開をいまベタにかまされると中々に玄妙なツラをせざるを得ない訳です。もちろん良い天丼と悪いマンネリの区別をどこで引くつもりだよオラッという問題はあるんだけど。そう考えると展開抜きにして楽しめるほど金剛石さんに乗れなかったというのが一番致命的だったような気がするな。
 金剛石さんの極端な性知識の薄さは、個人的にはかなりキツい水準のそれではあった。神性を湛えるほどの無垢さがあれば、とも思ったんだけど、金剛石氏はむしろ俗っぽい方面の人格してるしなあ……。平沢唯さんの方がたぶん神性の面では300%くらい強いんだけど、平沢唯さんは性教育程度の知識はまあ持っててもおかしくないよね、みたいな。何の話だ。
 あと、思春期が遅れてるような感じで鈍いヒロインをどう惚れさせるのかなーというのが中盤〜後半の技術的な興味としてはあって、実際、そこを安直に「ああ、もう好きになっていたんですのね」みたいな自覚で終わる展開にせず引っ張っていたところに結構期待していたんだけど、なんか最終的にロジックがよくわかんなくなった。たぶん僕の読解力と集中力の不足なのでそのうち復習したいところ。
 そういえば、最初に書いたような既視感からの落胆には、今作が高解像度で鮮やかなグラフィックの見栄えする作品だったから、というのも大きく寄与しているように思う。ワイド解像度だと現代的なので何かしら新しいシナリオが読めると脳が勝手に期待するのな。
 
・ルカ√
 全編最シコ台詞こと「セックスしたい」がぶっ放された記念すべきルート。
 ……金剛石√もそうだけど、プレイヤーの精神に負荷を掛ける必要あるの? って思ってしまう部分はかなり強くて、なにせ、この夏休みが終われば教会は取り壊されてしまうのである。どんなに楽しいことしかない夏休みであっても、否、楽しいことだらけであらばこそ、いずれ来る別れの衝撃はどこまでも高まってしまうという構造は共通している。なればこそ、約束された別れを前に無限に高まる郷愁と焦燥と幸福に塗れてやるぜーとこっちがスタンバイ完了している時に、ヒロイン周りで不穏な展開をされると、いや、つらくあるべきはそこではないのでは? と思ってしまう。
 「いま」「この瞬間」が既に、そう遠くない未来に思い出になってしまうことが確定しているという悲しさ、それを描くための夏休みじゃなかったの? って。
 まあ、僕の偏った嗜好が強く反映されたdisであると共に、終わりの郷愁をシナリオに活かすのは雛桜√だけ、という判断から他の√では温存されていた可能性もそれなりにあるだろうので(シンセミアで某妖怪との戦闘が銀子さん√で描かれなかった件を思い出しますね?)、不当な言い草ではあるかも知れない。個人的な好みとしても、同じ構造で違う論理を展開するような作品の方がツボだ、という事情もありつつ。
 まあそんなことは抜きにして、ルカさん超えっちですよ。いやHシーンではあんまり抜けなかったんだけど。全体的に、クールなお姉さんキャラとして意地を張ってみたけど実際セックスしたくてたまらなかった、みたいな独白が大変にペロペロしがいのあるキャラではあり、特に初エッチ直後のおっぱい吸われて悶々としながら今日は眠れなそうとか言ってるシーンなどは脱帽もの。裸立ち絵でもないのに超えろい。必見。
 青薔薇は本当にいい奴だなこのやろうという感じで。幸せそうに消えていくんじゃねえよまだ何もしてねえだろうが、みたいな。かっこ良く去りやがってクソが救済させろよ的な。西園さん√を若干思い出したりね。切り口の違いに着目すると面白いものが出てくるかも。
 あとアレ、姉になることを決心する年下の少女ってモチーフはよいですね。大人のように振る舞えば大人であり、人間のように振る舞う猫は人間であり、姉として振る舞う年下は姉である。本人の決意と振る舞いが何よりも強く優先される世界観に則した、リリカルな決意であったと言えましょう。
 
・詠√
 ダークホースその一。完全にやられた。
 共通√ではあんまり好きじゃないキャラ造形だなーって感じで。一歩引いた感じのキャラってそんなに好きになれない率が高くて。実際、金剛石とルカの√を終えてからも、早く雛桜√入りたいなーと思っていたのを覚えている。のだが。
 かつて交わした約束と、いつか還るべき場所へ。未来へ進むために、もう一度、本当の形では果たされなかった約束を再演する。想い出を紡ぐ猫の話。そのように振る舞うことの真贋。フレーバー程度かと思っていた伝奇的な要素が最終的にひとところに嵌る爽快感。なるほど、たかあき氏も褒める訳だ。終盤の回想は本当に切なかった。
 技術的には、叙述トリックの対象をヒロインにするんだー、というのが個人的な驚きポイントではあった。ADVのシステム上、まず叙述トリックを仕掛けやすく/効果が高いのはプレイヤー(或いは視点キャラ)であり、そこで敢えてヒロインの方を対象として取るというのがトリッキーな処理に見えた形。なんだか倒錯した感覚のような気もするけれど。
 彼女の気高さに乾杯。
 
・雛桜√
 めっちゃイラストが綺麗。表情とかも含めて。原画さん追ってく構え。
 未分化の親愛と恋愛がどう相転移していくのか、みたいな部分の処理はちょっと唐突というか、展開を長く割いた割にいまいち説得力を読み込めなかった気はする。眠気を押してプレイしてたのでそのせいかも知らんけど。誰か教えてください。
 それ以外の点ではもう、すばらしみに満ちている、としか言いようがない。成長した雛桜の造形はもうマジでストライクだったし声も最高だったし。
 重い過去まわりの展開は若干胃にもたれたものの、大人として振る舞うものを描く物語に於いて、大人として振る舞えなくなってしまった年上を描くこともまた必要だったのかな、などと適当に思ったりなんだり。
 詠さんもそうだけど、よかったと思ってる√のが書くこと少ない、というのはすごいなんかアレだな……。
 
・月子ちゃん
 √ないけど。ないけど???
 本当に攻略できないんだなー、と。好きなキャラだったので残念に思う気持ちがありつつ、でも拘って非攻略キャラにしてくれたのだとしたら、それもいいかな、とも思う。
 ひまなつは過去の約束の話である、とか、そんな感じの話。残念ながら、現在と未来だけでは足りなかったのだろう。